先日、久しぶりで荷風の「すみだ川」を読み返しました。初めて読んだのは二十歳の時でしたが、ひどく感動したことを覚えています。その後数十年経って読み返しときは、何も感じるものがなかったですが、この度は素直に小説に没入でき、共感出来ました。ここ数年機会があれば荷風の随筆や評論などを読んでおり、殊に失われゆく江戸の文化を哀悼したものには、文句なく共鳴していました。未だ江戸の姿が残っている明治初期に生まれて戦後の昭和三十年代まで生きた荷風にとって、江戸の変貌を見続けることはどのような気持であったか、美しい大川の流れが悪臭を放つ溝川へと変わる姿を見届けることは、どれ程悲しいものであったか。荷風が小説に描いた浅草や向島辺を訪ねて、更なる変貌を観察し、江戸の面影を探したいと頻りに思っています。